花盗人 [できごと]
花盗人という言葉があるけれど……
花盗人は一枝だけれど、根こそぎ盗られた。
持ち運ぶのが楽なように、枝をはらい、抜いた穴を埋めてまでして。
盗った人にとっては、「小さくてかわいい椿」 と それだけのモノだろうけれど、
あの椿は私にとって「特別な木」なのだ。
たった一本、とーちゃんが買ってくれた植木。
とーちゃんはハナミズキを植えたかったのだけれど、過密状態の我が家には無理。
「これ位なら大丈夫だろ」 と言って旅先で買ってきた椿。
「いい匂いがするんだってよ」 と 得意そうに話していた。
確かに、椿には珍しくほのかに甘い香りがした。
80㎝ほどの高さで、直径5㎝くらいのピンクの花がたくさんついている。、
「風鈴一号」という名の椿。
木は小さいけれど、もう植えて十年は経つ。
花の盛りに植え替えられて無事だろうか。
盗人の家でも、キレイに咲き 薫っているのだろうか。
とーちゃんが大事そうに抱えてきた椿。
とーちゃんの形見の椿。
とーちゃんが逝って十日目のことだった。
どこに植えられても、元気で咲き続けておくれと思う反面、
盗人の家で咲くくらいなら、とーちゃんに殉じてもいいよ、とも思う。
花に罪はないのに。
2016-03-16 15:18
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